フリーランスを救うには、インボイス制度廃止しかない

新宿支部 菊池純

インボイス制度とフリーランス法

税金の滞納があったから応募してしまった。闇バイトに手を染めて強盗に入った犯人の一人がそう供述している。

消費税は、所得税、法人税と違い赤字でも課税される。だから、消費税の滞納額はずぬけて多い。まして2023年(令和5年)10月からのインボイス制度の導入である。今まで課税売上1,000万円以下の免税事業者が取引から排除されないためにインボイスに登録、課税事業者になり納税をさせられている。

折しも2024年(令和6年)11月1日から、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(以下「フリーランス法」という。)が施行された。企業などに雇われないフリーランスが働きやすくなるよう、業務委託契約を結んで仕事を発注する企業に義務が課される。しかし、同法がフリーランスを救えるのか懐疑的にならざるを得ない。

フリーランス法は、2023年(令和5年)4月28日に可決成立し、同年5月12日に公布された。成立の前にフリーランスを国会に呼んで、フリーランスを守るにはどうすればよいかの意見を聞いたところ、「インボイス制度を導入しないで欲しい。それが一番救われる。」と述べた人がいた。その事実がマスコミに全く報道されていないのはどういうわけか。

フリーランス法は、インボイス制度が導入されたので法制化された、といわれている。インボイス制度を導入しないでほしいというフリーランスの意見と、インボイスが導入されたからフリーランス法を作ったという矛盾は、平行線で解決しない。すなわちフリーランスは救われない。

そこで、この2つの法律を比較検討する。その過程で、真にフリーランスを守るにはインボイス制度廃止しかないという事実を国民に知ってもらいたいと思っている。

(1)フリーランス法とは

フリーランス法は、働き方の多様化の進展に鑑み、個人が事業者として受託した業務に安定的に従事することができる環境を整備することを目的とし、特定受託事業者に係る取引の適正化及び就業環境の整備を図るため、一定の義務を課す。

取引の適正化に係る規定については主に公正取引委員会及び中小企業庁が、就業環境の整備に係る規定については主に厚生労働省がそれぞれ執行を担う。

これまでも、フリーランスを保護するために下請法(独占禁止法を補完する法律、下請事業者に対する親事業者の不当な取り扱いを規制する法律)があったが、下請法が適用されるには発注事業者の資本金が1,000万円を超える場合に限られるという制限があり、フリーランスに取引を発注する委託事業者の多くは資本金1,000万円以下であり、下請法では保護されないケースが多いのが実情だった。

フリーランス法であれば資本金による発注事業者の限定がないため、下請法が適用されないフリーランスも保護を受けられる。

フリーランス法の義務項目は、

①書面等による取引条件の明示
②報酬支払期日の設定
③禁止行為
④募集情報の適格表示
⑤育児介護等と業務の両立に対する配慮
⑥ ハラスメント対策に係る体制整備
⑦中途解除等の事前予告・理由開示

とされている。

義務の中の「禁止行為」は、業務委託をした日から契約が終わるまでの期間が1カ月以上かかる取引の場合、仕事を発注する側に禁止されている行為が、

①受領拒否(半分はもういらない)
②報酬の減額(報酬を少し削るね)
③返品(売れ残ったのは返品します)
④買いたたき(資材価格はあがっているけど、単価はこれまで通りでお願い)
⑤購入・利用強制(10枚購入してくれない?)
⑥不当な経済上の利益の提供要請(ついでに片付けておいて)
⑦不当な給付内容の変更・やり直し(急いで台本書き換えて)

の7パターンある。

ところで、この中の報酬の減額、買いたたき等はインボイス制度導入の時問題になった。フリーランス法でも、取引条件の明示違反、禁止行為のいずれも、必要な措置をとるよう勧告(かんこく)を受けることになる。

勧告に従わなければ罰則付きの命令が出される。公正取引委員会は、勧告や命令を出した事業者については、違反行為の内容と共に事業者名も公表する運用を明らかにしている。

 

(2)インボイス制度、増税の仕組み

インボイス制度導入により、課税関係がどのように変化するかを、BtoB(事業者同士の取引)が主である事業者の内、下請け側の売上が1,000 万以下の事業者(免税事業者)である場合で考察すると、下請け側と元請側のどちらかの、消費税の納付額が増加することになる。

下請け側が登録すれば、課税事業者となり消費税を納めることになり、登録しなければ、元請側の納付する消費税額がその分増加する。インボイス登録は強制ではないので、どちらが負担してくれても、国はどちらでもいい。

一般的には取引価格を決定する力は元請側が強い事が多いので、下請け側は登録して消費税の課税事業者にならなければ仕事を取れなくなる。

フリーランスの中で、アニメや漫画など文化芸術の分野等、限られた椅子に座りたい人がたくさんいる業界になればなるほど、発注者側による搾取構造になりやすい。

(3)公取委の取り組みでは保護が機能しない

2023年(令和5年)公正取引委員会が「インボイス制度の実施に関連した公正取引委員会の取組」を公表した。

その中で、仕入れ先である免税事業者との取引について、インボイス制度の実施を契機として取引条件を見直すことを検討している事業者が、独占禁止法等で問題になる行為として

①取引対価の引き下げ
②商品・役務の成果物の受領拒否等
③協賛金等の負担の要請等
④購入・利用強制
⑤取引の停止
⑥登録事業者となるような慫慂(しょうよう、しきりに勧めること)等

の6パターンを挙げている。これはフリーランス法で、仕事を発注する側に禁止されている行為と重なるとことが多い。

しかし公正取引委員会は、「取引対価の引き下げ」の項目で、「取引上優越した地位にある事業者(買手)が、免税事業者との取引において、仕入税額控除できないことを理由に取引価格の引下げを要請し、再交渉において、双方納得の上で取引価格を設定すれば、結果的に取引価格が引き下げられたとしても、独占禁止法上問題となるものではありません。 しかし、再交渉が形式的なものにすぎず、仕入側の事業者(買手)の都合のみで著しく低い価格を設定し、免税事業者が負担していた消費税額も払えないような価格を設定した場合には、優越的地位の濫用として、独占禁止法上問題となります。」と述べている。

上記太字部分の考え方だと、実質的には、経過措置の80%仕入税額控除が適用されているときは、10%の値下げ交渉は違法になるが、2%の値下げは許容する形になってしまう。

すると、2026年(令和8年)10月1日からは5%の値下げを許容し、2029年(令和11年)10月1日からは、10%値下げがOKになる。

フリーランス法の「禁止行為」「買いたたき」では、フリーランスに対して、役務の提供や物品の製造などを委託し、報酬を決める際に、通常支払われる対価に比べ著しく低い報酬の額を定めることは禁じられる。

「買いたたき」かどうかは、①十分な協議が行われたか②差別的でないか③「通常支払われる対価」と大きな違いはないか④原材料などの価格動向などが考慮される、としているが、インボイスの価格引き下げには触れていない。

ということは、フリーランス法でも十分な協議が行われたとして、2029年10月から10%の値下げをさせられることになる。これでは、フリーランス法ができて、資本金1,000万円以下の事業者も保護されるようになっても機能していないことになる。

(4)政府による誤情報の垂れ流し

2024年(令和6年)12月4日、国税庁・財務省は連名で、日本税理士会連合会宛に「消費税のインボイス制度に関する周知等について(協力依頼)」を行った。

内容は、インボイス制度について改めて周知させていただきたい事項をまとめたとしており、取引上の留意点として次のように述べている。

「消費税について課税事業者に転換した取引先(売手側)から、免税事業者であったときの取引価格からの引上げを求められたにもかかわらず、価格交渉に応じず、一方的に従来どおりの取引価格に据え置いた場合、独占禁止法・下請法等に違反するおそれがあります。独占禁止法・下請法等の考え方については、別添2をご確認ください。

なお、買手側では、従来から消費税相当分を支払ってきたと認識している場合でも、売手側では、消費税相当分として支払われている分も含む金額がいわゆる本体価格として妥当な金額であると認識して取引している場合があり得ます。売手側からは価格交渉を申し出にくい場合もあることから、買手側においては、取引先との間で消費税相当分の金額に関する認識の不一致が生じないように注意し、インボイス制度を機に課税事業者に転換した事業者に対しては、必要に応じて価格引上げの要否を確認するなど、適正な取引関係の構築にご留意ください。」(太字、国税庁、財務省)

この留意点は、実際に取引を行っている事業者から見たらあり得ない事項の羅列であり、怒りすら覚える内容だろう。

なぜなら、免税着業者から課税事業者になることで、取引の価格が上がると思っている人もいなければ、その逆に取引先が課税事業者になったから取引額を上げてやろうと考える事業者もいない。免税事業者のままなら取引の価格を引き下げられるか、排除されるしかないから課税事業者になる人がほぼ100%といっていい。

国は、消費税を預り金と見立てる作業をインボイスを使って行おうとしており、今までの間違った情報の垂れ流しを正当化しようとしている。

(5)価格転嫁ができるように報酬適正化を、というけれど

消費税法第四条は、「国内において事業者が行った資産の譲渡等及び特定仕入れには、この法律により、消費税を課する。」とされている。

これは課税事業者だろうと免税事業者だろうと消費税を課す、とされているわけで、インボイスが入っても同じように、免税事業者も10%乗せた価格でよい、ということになる。

するとインボイスが入って10%価格が上がるから消費税を払っても手取りが増える、という理論が成り立たない。今までが適正価格だったからだ。

この報酬適正化の主張には、消費税は預り金で免税事業者には益税がある、という考えが潜んでいる。

本当は消費税を預かってはいけない免税着業者が、課税事業者になることで、堂々と消費税を預かれるようになる、だから、まんざらインボイス制度は捨てたもんじゃない、とでも言っているように聞こえる。

しかし、これは間違った考えだと証明されている。

すなわち判例においても、「消費者が事業者に対して支払う消費税分はあくまで商品や役務の提供に対する対価の一部としての性格しか有しないから、事業者が当該消費税分につき過不足なく国庫に納付する義務を消費者との関係で負うものではない。」とされており、金子財務大臣政務官の2023年(令和5年)2月10日の国会答弁においても、「消費税は預り金的な性格の税であり、預かり税ではない、というのが財務省の見解だ。預り金ではないという認識で結構だ。」と述べている。

また政府は消費税を間接税と説明しているが、消費税法において、事業者の行った資産の譲渡等には、消費税を課し、事業者は消費税を納める義務がある、と規定している。すると消費税は、税を負担するのも税を納めるのも事業者となっており、まさに直接税ということができる。

アメリカは1969年に企業課税委員会で付加価値税・消費税導入に反対という結論を出し、大統領への第1回目の報告で採用見送りを提言して以降、いまだに付加価値税・消費税を導入していない。実はその報告書の中では「付加価値税・消費税ははたして税金と言い切れるのか?」という議論がなされている。

消費税は価格に埋もれてしまう、価格の一部であるというアメリカの認識は、生産者が負担する事業税と同じなのだから、間接税でなく直接税ということになり、実質的には消費者からの徴税ではないので、消費税を導入する意味はない、法人税ですでに徴収されているのだからそれでよいのではないか、という指摘がなされている。

(6)インボイス制度もフリーランス法も土台が間違っている

インボイス制度もフリーランス法の禁止行為も、消費税は預り金という考えの上で構築されている。

公正取引委員会も、形だけの交渉を盾に、フリーランスを守ろうとしない。

得意先から課税事業者になるよう求められた免税事業者が公正取引委員会に申し出たところ、「わかりました。注意しておきます。」といったきりで現状は何も変わらなかった、という人がたくさんいる。

免税事業者が消費税の額を請求すると、その額だけ少なく振り込んでくる場合も後を絶たない。消費税を乗せないように請求書の書き直しを求められている免税事業者もたくさんいる。

インボイス制度の業者間の軋轢はフリーランス法で解決することは無理がある。おまけに付加価値のない事務量の激増である。

マスコミも、新聞に軽減税率が適用されてから財務省の味方となり、消費税増税にもインボイス制度導入にも賛成している。

フリーランス協会も間違った理論の上に、インボイス制度導入前の時点で「インボイスは複数税率導入に伴って必要となった制度なので、もし廃止するとなれば、軽減税率をなくして一律10%の消費税にするか、あるいは消費税そのものをなくす、といった大胆な変革が必要です。ただ、このどちらも現実的ではありません。アメリカを除くほぼすべての先進国でもインボイス方式が導入されています。施行が2023年秋に迫る今、私たちが取り得る最も建設的な自己防衛策は、制度について正しい知識を持ち、先手を打って対策を始めることかと考えます。 自分にとってベストな選択ができるよう、来秋にむけて対策を考えていきましょう!」と国の代弁者のようなことを述べている。

フリーランスの方々で、この正体がわかった人が、インボイス制度廃止しかない、と声を上げた。

フリーランス法はフリーランスのホントの声を聴く必要がある。

インボイス制度が廃止されれば、消費税の増税分がなくなり、付加価値を生まない事務作業が激減。仕事仲間が分断されることなく、免税事業者が排除される恐れもなくなる。事業者だけでなく、消費者、会社員、未来を生きる若者たちなど、生活者の幸せに直結する。

国民にインボイス制度廃止こそが唯一の解決方法であると訴えていきたい。それは、先の総選挙で多くの野党が掲げた公約でもある。

与党を過半数割れに追い込んだ衆院選の結果は、インボイス制度廃止の民意のあらわれで、2025年に実現すべきだし、しなければならないと肝に銘じている。

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コメント: 1
  • #1

    三森羊一 (水曜日, 22 1月 2025 17:39)

    > 消費税法第四条は、「国内において事業者が行った資産の譲渡等及び特定仕入れには、この法律により、消費税を課する。」とされている。
    >これは課税事業者だろうと免税事業者だろうと消費税を課す、とされているわけで、インボイスが入っても同じように、免税事業者も10%乗せた価格でよい、ということになる。

    課税事業者の売上税額は「預り金(買手の私有財産)」ではないことは「預り金裁判」で判決が示された。では、免税事業者は? 売上に売上税額が発生しているのに「納付」を免除されているのか? つまり買手に請求は出来るけど「納付」しなくて良いのか? これは「益税=逸税=税収の取り逃し」ではないのか? という疑問が生じる。

    実は「張江訴訟」で「免税事業者の売上には課されるべき消費税は存在しない」という判決が出ている。免税事業者は「実質、非課税」なのだ。
    第一審 東京地裁 平成9(行ウ)121
    第二審 東京高裁 平成11(行コ)52
    第三審 最高裁第三小法廷 平成12(行ヒ)126

    引用箇所の見解は「税理士の神様」湖東京至氏が原審で「消費税法の鑑定」で法廷で証言されたものだが(当時、税理士の多くが免税事業者も課税されているという見解で、湖東氏はそれを現在も堅持)、司法判断で否定された。第4条はあくまでも「課税物件」の規定であり、納税義務者は第5条で規定され、第9条は第5条の「例外規定」だ。

    『国と国民との間の課税関係(納税義務の発生)は、納税義務者につき課税物件(課税の対象とされる物、行為又は事実)が帰属したときに成立するものである。』(第一審判決文の冒頭)
    免税事業者は納税義務者(租税債務者)ではないから、国と課税関係は成立し得ない。

    インボイス制度の導入前に「実質、非課税」の免税事業者が商流の途中に存在できたのは「非課税の免税事業者から仕入れても、課税事業者から仕入れたと『見做し』て、仕入れた課税事業者は仕入税額控除をしても良い」という行政措置が設けられていたからだ。
    消費税法基本通達11-1-3(課税仕入れの相手方の範囲)

    以上、補足いたします。