インボイスは消費税率をいじらない増税である
いったい免税事業者の数はどのくらいなのだろう。
財務省が考える免税事業者は488万者、そのうち161万者がインボイスに登録、課税事業者になり1事業者154,000円の納付、2,480億円の消費税増と政府は計算している。
しかし、インボイス制度は免税事業者と取引のある原則課税の事業者にも税負担が生じる、消費税の税率をいじらない増税である。
すると、免税事業者の数によって増税額も変わってくるし、税負担の押し付け合いによる業者間の軋轢件数も変わってくる。
任意団体、ギグワーカーにもインボイスの影響
ランサーズの調べによると、日本のフリーランスの人口は2021年には過去最高の1,670万人と急増している。この数字はコロナ前の2018年と比較すると1.5倍ほどまで増えている。
1,670万人は労働人口の24%であり、日本は先進的なアメリカの働き方に近づく傾向があるので、フリーランスの数が労働人口の35%のアメリカに近づいてゆくと予想される。このフリーランスの方々のうち、多くの免税事業者がいると思われる。
加えて、今まで消費税と関係なかった、人格なき社団、任意団体等が免税事業者となり、収益事業がインボイスの影響を受けることになる。
また、政府は働き方改革で副業を勧めており、コロナ禍で増えたギグワーカーも考慮すると、免税事業者の数は1,500万者以上になるのではないかと考えられる。
町内会の収入にも消費税・法人税の納税義務?
PTAや町内会、同好会など、多数の者が一定の目的を達成するために結合した団体のうち、法人格を有しないものはその規模に関わらず「人格なき社団等」と呼ばれる。「人格なき社団等」は単なる個人の集合体でなく、団体としての組織を有し統一された意思の下にその構成員の個性を超越して活動を行うものをいう。
法人税法では、人格のない社団等は法人とみなされ、収益事業を行う場合に、法人税の申告、納付義務が生じる。地方税法においても法人同様に収益事業を行う場合は地方税の課税が行われる。
また、消費税でも人格のない社団等も法人とみなされてるので、課税資産の譲渡等を行う場合で一定の場合には納税義務者となり、収益事業者に該当する場合は、事業として対価を得て行う国内の資産の譲渡や貸付け、役務の提供について消費税の申告、納税義務を負うことになる。
インボイス制度が導入され、人格なき社団等がインボイス登録を行った場合、収益事業を行ったとして法人税、法人住民税の申告、納付義務が生じる可能性がある。
例えば、町内会が花火大会を企画してその協賛金を募ったとする。この場合、協賛者側(原則課税の課税事業者)は、広告宣伝費として仕入税額控除ができたが、インボイス導入後は登録番号等がないと控除ができなくなる(経過措置あり)。
町内会の収入は、会員からの会費、花火大会の協賛金の2つであり、いずれも非収益事業として法人税、法人住民税の申告はしていない。
町内会がインボイスの登録を行った場合、協賛金を広告宣伝の対価と位置付けるなら、法人税法上の収益事業となる可能性があり、その場合は消費税だけでなく法人税の申告納税義務も生じる。そして、法人税はかからない場合もあるが、法人住民税の均等割りは必ずかかってくる。
このように、インボイス制度は「人格なき社団等」が行ってきた経済行為が、「登録を余儀なくされることによる収益事業の顕在化」を生じさせ、結果として法人税均等割りの申告問題にも影響させるなど、インボイス制度実施による消費税、法人税問題をもたらすになる。
インボイス未登録の事業者は入札から排除されるおそれ
自治体は物品やサービスを住民や企業に販売する売手である。
一般会計では庁舎の使用料、公共施設の入場料、公共施設の命名権、広告掲載料、公営駐車場の料金等で売手として収入を得ており、特別会計では上下水道事業、工業用水事業、病院事業、交通事業等の売手となる。
自治体が販売する物品やサービスを企業が購入する場合、企業は仕入税額控除によって自分が仕入れで支払った消費税額を差し引いて申告する。したがって売手である自治体は、買手に対してインボイスを交付する必要が生じる。
一方、自治体の一般会計は消費税の申告義務がないため、仕入税額控除を利用することはないが、特別会計の事業は消費税の申告・納税義務がある。
すると、事業を行うにあたって他の事業者から商品やサービスの仕入れについては、仕入税額控除を適用する。従って、特別会計では仕入れ先の事業者からのインボイスは必要としており、インボイスのない事業者は取引から排除される可能性がある。
現に、2022年に福島市がホームページに掲載した「令和5・6年度入札参加資格申請の手引き」で、「インボイス制度の登録がない場合、水道局及び下水道室発注の工事等の受注ができなくなります」と記載した。
その後、総務省、財務省が「適格請求書発行事業者でない者を競争入札に参加させないこととするような資格を定めることは適当ではないと考える」との考えを各自治体に示したことで、この文言は削除されたが、実際インボイス未登録者が入札に参加できたか、また落札業者になれたかは注視していく必要がある。
個人事業主の労働者性とインボイス
アマゾンの運送委託先で働く配達員は、形の上ではフリーランス(個人事業主)だが、実態は労働者にあたると労働基準監督署が判断し、労働災害の認定を受けた。
また、品川労働基準監督署が、都内の会社と業務委託契約を結ぶフリーカメラマンの男性が通勤中に遭った交通事故を労災と認定した。
税務調査でも、外注先は実は雇用しているのでは、などの指摘を受け源泉税の支払いを求められることがある(国の策略で、建設現場などで労働者が社会保険にかいっていないと現場には入れない政策を打ち出してから、建設業では外注費から雇用に切り替えたところも多いがその他の分野ではまだ請負形態が多い。)。
「実は給与だったので納税分返して」は通るのか?
フリーランスとしてインボイス登録をしていた者が、労働者と認定された場合、(このような労災問題以外にも、委託会社に調査が入り、労働者とされる可能性がある。)消費税の申告、納税はどうなるのか?
事業としてインボイスの届け出をした場合、「本当は給与でしたので消費税の納税分を戻してください」というのは至難の業に思われる。
加えて宅配便大手のヤマト運輸が、小型荷物の配達を委託している個人事業主約3万人との契約を2024年1月までにすべて終了。また、カタログやチラシといった郵便ポストに投函できる小型荷物の配達を日本郵便に委託すると発表した。
この決定も、インボイス制度のせいではないかと勘繰ってしまう。
物流の2024年問題にインボイスが拍車
物流業界の「2024年問題」という言葉が聞かれる。2019年に施行された働き方改革関連法に基づき、2024年4月から自動車運転業務時間は休憩を入れて年3300時間まで、残業を、年960時間までとする上限規定が設けられる。
日本の物流はドライバーの長時間労働に頼ってきたので、運転手不足と相まって今までのように荷物が運べなくなると言われている。
コロナ禍を経た通販業界の拡大により、アマゾン、ウーバーイーツ等フリーランスの配達員が急増している。フリーランスは、自由な働き方がもてはやされる一方で、法的保護が弱く、嫌なら辞めてと言われてしまう。
インボイスが導入され関係ないと思っていた人格のない社団等、国、地方公共団体と取引のある事業者等が多大な影響を受ける。さらにギグワーカーの雇用問題等があり、2024年問題の流通業界の苦難にも拍車をかける。
世界の流れに逆行する日本のインボイス
それでも働き方改革でフリーランスの労働人口をアメリカのように35%を目指そうとするのか。税の押し付け合いの軋轢はどのくらいか、増税額はどのくらいになるのか。
ちなみにアメリカでは、日本の消費税のような税制は輸出企業に補助金を与えるだけの不公平な税制という事で導入していない。
インボイス制度中止に賛同する税理士の皆様を募集しています
私たちの会は、インボイス制度に反対している税理士の有志で立ち上げた会です。
私たちの会は数度にわたり、与野党の国会議員と集会や勉強会を開催し、インボイス制度中止の陳情をしてきましたが、残念ながら2023年10 月から実施となりました。
しかし導入されてから、事務負担の増大、免税事業者の排除、価格値引きの強要と、納税者にさまざまな負担が強いられています。その上、担保となる公正取引委員会などが機能せず、3月の消費税申告では、無申告や滞納など税務行政の混乱は必至です。
納税者からは「なぜこんな税制が入ったんだ」「税理士はちゃんと反対してくれたのか」と、赤字企業にも課税される付加価値税を免税事業者にも及ぼしたことに怒りの声が出ています。
この制度が継続されたら日本経済は惨憺たるものになります。私たちと一緒にインボイス制度の問題点を追及しましょう。私たちの会に賛同してください。ご一緒に「インボイス制度中止」の声を広げましょう。